特許申請前の5つのチェックポイント
産業上利用できる発明
産業上利用できる発明にならないものの例として、例えば、フォークボールの投げ方やプロレスの技などがあります。
また、宇宙の真理や、新しいゲームのルールなども産業上利用できる発明には該当しません。
また、こちらは少し以外に感じるかもしれませんが、人を治療する方法も発明には該当しません。
人を治療する方法に特許を与えてしまうと、医師の人命救助行為が特許権の侵害になってしまう可能性があるからです。
特許権を侵害したくないという理由で、人命の救助ができないという状況になるのを防止するために、人を治療する方法については、特許申請して特許を取得できる対象外となっています。
なお、人ではなく動物を治療する方法については発明に該当します。ヨーロッパでは、動物を治療する方法についても、特許取得の対象外となっています。
フォークボールの投げ方やプロレスの技が特許の対象にならない理由は、それらについては、再現性が乏しいからです。
例えば、「プロ野球選手のフォークボールの投げ方」という特許があったとして、私を含む一般の方が、その特許出願書類を見ても、同じようにフォークボールを投げることができるというわけではありません。
再現性がない発明については、特許を与えても、誰も同じような効果が得られません。そのため、誰も実施・販売できないものであるため、産業を発達させるという特許法の趣旨からしても特許取得の対象にはできません。
また、再現性がない特許出願されることで公開される情報そのものの価値が乏しくなります。
特許は、再現性がある新しい情報を開示するご褒美に国から与えられるものであるため、再現性がないと、そのご褒美に値しないという前提があるのですね・・
ビジネスモデル特許についても、その処理に人間が介在したとたんに、再現性がなくなるため、特許取得の対象外となってしまいます。
なぜ、処理に人間が介在してはいけないかというと、その理由は、人間が介在すると再現性がなくなる可能性があるからです。
すわわち、ビジネスモデル特許にするためには、その処理をすべてPCなどのコンピュータが行わなければなりません。
再現性と言われると、難しいと考えられることがいるかもしれませんが、そこは、人間ではなく、コンピュータが処理するという表現にすることで、クリアされるので大丈夫です。
コンピュータが、決められた手順通りに処理するという内容であれば再現性があるからです。
新規性について
新規性とは、ざっくり説明すると、発明が従来にないものであるかどうかということです。出願する発明には新しさが要求されます。
そのため、これまでに出願された技術と全く同じものについては特許申請できないということになります。
例えば、新しく開発した技術であっても、守秘義務のない人に1人でも知られてしまうと、新規性がなくなって、原則として特許申請ができなくなります。
そのため、特許出願前に、製品を販売したり、製品のパンフレットを配布したり、製品をインターネット上に公開してしまうと、その発明については特許取得できなくなってしまいます。
ですので、特許出願前には、できるだけ上記の行為を控えなければなりません。
出願前にHPに掲載したり、パンフレットを配布したりなどの公開行為をすることは、珍しくありません。その場合であっても、最初に公開行為をした日から6か月以内であれば、新規性喪失の例外という手続きをすることで、新規性を失わなかったことにできます。
構造がシンプルだったり、操作画面などのインターフェースに関する発明の場合、公開しただけで模倣されるリスクが高まるため、特に注意が必要です。
一方で、例えば、食品の成分や、作り方などに発明の特長があることがあります。
その場合は、製品の成分表を公開しない限りは、製品の完成品を公開してもその発明については新規性を喪失しない場合があります。
公開された成分の完成品を見ても、どのような成分で作られているかまでは分からないからです。
因みに、守秘義務のある人には何人知られても新規性を失うことはありません。例えば、同じ社内の人間であれば守秘義務があります。そのため、同じ社内の人間に新しく開発した技術が知られても新規性を失い、特許取得ができなくなるということにはなりません。
一方、上述したように、守秘義務のない方には、1人でも知られてしまった場合には新規性を喪失してしまいます。
そのため販売前に売り込み打診をする場合や、試作品の製作を依頼する場合には、秘密保持契約を結んでおくことが必須になります。
秘密保持契約を結んでいなかったことから、出願前の技術が拡散してしまっては、取返しのつかないことにもなりかねません。
発明が、新規性があるかどうかを調べるには、特許出願前の調査が有効です。
これまでご説明したように、出願する発明は、従来の技術と同じだと、新規性がなく、
出願しても特許として認められないからです。
そうなると、出願にかかった、数十万円もの費用は、すべて無駄になってしまいます。
一方で、出願前、過去にどのような発明が出願されているかを調査することで、
自分の発明が特許になるかどうかがある程度分かるようになります。
また、発明をどう改良すれば、特許になるかも分かります。
特許出願前に調査をすることで、出願費用が無駄になることを防止できるだけでなく、
発明が特許になる可能性を高めることができます。
出願前の調査は、以下のURLの特許情報プラットフォームで無料でできます!
https://www7.j-platpat.inpit.go.jp/tkk/tokujitsu/tkkt/TKKT_GM201_Top.action
進歩性について
まず、新規性の復習ですが、新規性とは、ざっくり説明すると、発明が従来にないものであるかどうかということです。出願する発明には新しさが要求されます。
そのため、これまでに出願された技術と全く同じものについては特許申請できないということになります。
これまでに出願された技術を少し変えれば、原則は新規性の要件は満たすことになります。
しかし、新規性の要件を満たした発明や技術のすべてに特許を付与してしまうと、従来の技術にほんの少し変更を加えただけのものも全て特許になってしまいます。
そうなってしまうと、世の中は特許だらけになってしまい、何をやるにしても特許権を侵害してしまい、ほとんどの会社が製品を販売できなくなるということにもなりかねません。
特許法は、産業の発達に寄与すること目的とした法律ですので、上記のような事態になってしまうのを防止するために、進歩性の要件が課されています。
進歩性ですが、簡単に説明すると、従来技術を組み合わせ、組み合わせに意外性がない場合に該当します。
また、進歩性の判断には、組み合わせる者同士の作用、機能の共通性や、技術分野の共通性や、解決したい課題の共通性などが考慮されます。
例えば、
「船外機を設けた船」と「空中プロペラを設けた船」が従来技術として知られている場合、「船外機と空中プロペラの両方を設けた船」を特許出願して、従来の「船外機を設けた船」や「空中プロペラを設けた船」よりも推進力があることを主張しても、「進歩性」がないと判断される可能性が高いです。
また、以下のような場合に進歩性がないと判断されます。
・最適材料を選択したもの
・設計変更をしたもの
・発明の一部を置き換えたもの
例えば、
「椅子の移動をスムーズにする」キャスターの技術を「机の移動をスムーズにする」キャスターの技術に応用して特許出願して、従来の机よりもスムーズに移動できるようにしたことを主張しても、単に、発明の一部の置き換えたものであるとして、進歩性がないと判断される可能性が高いです。
一方で、従来技術を組み合わせたものであっても、従来のものに比べて異質な効果や、際立って優れた効果があり、開発者がこれらの効果を予測できない場合は、進歩性があると判断されます。
例えば、
「船外機を設けた船」と「空中プロペラを設けた船」が従来技術として知られている場合、「船外機と空中プロペラとの取付位置を工夫することで、安定して推進可能にしたことを主張すれば、「進歩性」があると判断される可能性があります。
また、
「椅子の移動をスムーズにする」キャスターの技術については、椅子よりも大きな机をスムーズに移動させるために、キャスターの構造を工夫した発明については、進歩性があると判断される可能性があります。
机については、椅子と事情がことなり、作業中にスムーズに移動されると困る場合もあります。
そのため、作業中には移動しないで固定されるような工夫の方が製品としての市場性はあると思われます。
進歩性を作りこむのも、動かなくするための工夫の方が作り込みやすいと思います。
このように、製品の特性に応じて発明の良さを作りこむ作業をすることで、進歩性を主張しやすくなり、特許取得率を高めることができるようになります。
実現性について
アイデアだけでも特許を取れるかという質問を頂くことがあります。
結論から言いますと、アイデアの内容が実現可能なまで、具体的になっていれば、実現性があり、特許を取れる可能性があります。
実現性とは、実際に特許製品が目的とする効果を達成できる程度に具体化されているかということです。
簡単にご説明しますと、どらえもんに出てくる発明では、特許にするのは不可能ということです。
例えば、どこでもドアを出願するには、ドアに行きたい場所(ドアを開けた先が繋がる空間)をどうやって認識させるかを具体的に説明しなければなりません。
また、ドアを開けた先を行きたい場所に繋げるための理論や理屈を具体的に説明しなければなりません。
これらを明確にして初めて、「行きたい場所に瞬時に行けるようになる」という発明の目的を達成できるからです。
タケコプターなら、どうやって、空を飛ぶほどの浮力を発生させるのか具体的にしなければなりません。飛んだ後に、飛行する方向をどうやって認識させ、プロペラを制御するかも明確にしなければなりません。タケコプターを頭に固定する方法も具体的にしなければなりません。
これらをすべて明確にすることで初めて「頭に取り付けるだけで、好きなように飛行できるようになる」という発明の目的を達成できるからです。
具体的にといっても、商品の現物を用意するまで具体的にする必要はないので
それほど難しくはありません。
何かやりたいことがあって、そのやりたいことを実現できるように内容を具体的に
すれば十分です。
例えば、「机に置いても転げ落ちない鉛筆」というだけでは、やりたいことを表明している
だけなので、特許を取れません。
一方、転げ落ちないようにするするために、「鉛筆の横断面の形を六角形状」にした
などを明確にすれば特許としての対象になります。
もちろん、特許としての対象になるだけでなく、従来の技術に対する違いを明確にしなければ
なりませんが、そのあたり、知財担当者や、弁理士を交えて、発明を育成することでクリアする
ことができるようになります。
ノウハウではないこと
開発の現場では、情報を開示することを恐れられる場合もあります。
これについては、特許にすべき技術(コア技術)と、出願すべきでないノウハウ(例えば、製品の検査方法や、金型の作り方など)との使い分けが大切です。
特許にすべき技術の特徴と、ノウハウの特徴は、ざっくり説明すると、以下になります。
(1) 特許にすべき技術
・製品として出荷されると、機能が知られてしまい、競合から模倣される(つまり、出願しなくても、情報が開示される)。
・競合が製品を模倣(模倣製品を発売)すると、特許権侵害していることが分かる(権利行使しやすい)。
(2) 出願すべきでないノウハウ
・製品として出荷しても、技術内容が、他者に知られない。
・競合が製品を模倣しても、特許権侵害しているか、分かりにくい(権利行使は、非現実的)。
ノウハウは、出願すると、情報を開示してしまうわりに、侵害されても、発見が容易でなく、権利化するメリットに乏しいため、出願すべきではありません。
つまり、自社技術は、なんでもかんでも、出願すれば良いという訳ではなく、ノウハウと、特許との使い分けは、極めて重要なテーマです。
ノウハウの例としては、金型についてのものなどがあります。金型は、模倣されても、本当にその金型が使用されたのかが分かりません。これを確かめるには実際に工場に入らなければならなくなり、それが現実的ではないということは分かると思います。
つまり、金型について特許出願をして権利化したといしても、真似をされても特許権の行使は難しいということになります。
他の例としましては、コカ・コーラの製造方法などがあります。最終製品のコカ・コーラを飲んでも、本当に、その製造方法を用いているかは確認することが難しいです。
一方で、最終製品のコカ・コーラが販売されたとしても、同じ味を作ることは難しく、仮に権利化しなくても、模倣されにくいという性質があります。
このように、そもそも模倣されにくく、模倣されたとしても、特許権の侵害を立証することが困難であるため、特許権を取得するメリットに乏しいということになります。
おまけ(中小企業が特許を取るメリットとは)
中小企業が特許を取得するメリットは以下になります。
収益面のメリット
特許を取得すると、市場を独占できるようになります。
すなわち、他人が自分の特許製品を販売した場合に「やめろ!」といえるようになります。
仮に特許を持っていない場合、他社の市場参入を許してしまいます。
そうなると、どうなるか?
他社は、開発費を投入していないため(模倣しているため)、安い値段で販売できるようになります。
同じ製品だったら、値段が安いものが選ばれますよね?
その結果、売上が下がります。また、売るために自社製品の販売価格を下げなければならず、
その結果として利益率が下がります。
最悪の場合、せっかくあらたな製品を開発したのに、開発費すら回収できなくなる自体になります。
実際に、2009年中小企業白書には、特許を保有していない中小製造業よりも、特許を保有している
中小製造業の方が、売り上げが131%高いというデータがあります。
売上とは直接関係ありませんが、特許を取得することで、市場を独占できるため、
自社技術の将来性や事業の安定性を主張しやすくなり、資金調達しやすくなったり、
ものづくり補助金の採択を受けやすくなるというメリットがあります。
取引先との関係でのメリット
特許を取得するだけでなく、特許を出願の準備をするだけでも、メリットがあります。
例えば、私のクライアントの中には、特許の出願の検討をしていることを説明しただけで、大手企業との
アライアンスを実現したという実例があります。
特許権を取得することで、特許庁という行政庁から、その技術がお墨付きを貰うため、さらに取引先から
信用度を増すことができます。
社内との関係
特許を取得することで、ある中小企業では、若手社員が「自社の技術は世界で唯一無二なんだ」
と実感し、モチベーションが向上したという実例があります。
また、社員が、自社技術や自社製品にプライドを持つようになったという事例も過去にはあるようです。