日本政府は先日(2019年4月1日)、平成に代わる新元号を「令和(れいわ)」と発表しました。新天皇の即位に伴い、5月1日から切り替わることになります。天皇の退位に伴う改元は憲政史上初めてのことです。
安倍晋三首相も会見を開き、「令和」について「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味が込められている」と説明しました。
首相はさらに、「令和」の典拠は万葉集で、歌の序文から2文字をとったと説明しています。元号の典拠が中国の漢籍ではなく、初めて日本の「国書」になったと述べ、万葉集は「我が国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書だ」と説明したことも、印象深いです。
それに伴い「万葉集」が書店で売り切れるなど、まさに今、この「令和」に対する世間の関心は高いことが伺えます。
そうすると、この「令和」をネーミングに取りいれた商品や、サービス、また事業者名そのものを考えたり、改名したりする事例が急増することも想像に難くありません。
例えば、、、
パン屋さんが「令和ベーカリー」を店名にして、「令和あんぱん」や「令和カフェオレ」を販売したり。
治療院が「令和クリニック」で開業して「令和治療法」を提供したり。
学習塾が「令和塾」と改名したり。
などなど。
実際、あり得る話だと思います。
しかし、上述したネーミングを、もし商標登録しようとした場合、どうなるでしょう。商標登録することはできるのでしょうか??
特許庁が公示している商標審査基準を引用しながら以下解説します。
1.“元号(現元号であるか否かを問わない。)として認識されるにすぎない商標は、識別力がない(自分の商品・役務と他人の商品・役務を区別するものにはならない)ため、商標登録を受けることはできません。”
・・・原則として、「令和」は登録できないことを述べています。
つまり、「令和」にはいわゆる「識別力」がないよ!だから、原則として登録できないよ!ということを述べています。
なお、現元号か否かは問わない、とのことから今後は「平成」「昭和」「大正」・・・も原則として登録できません。
2.“現元号であるか否かにかかわらず、会社の創立時期、商品の製造時期、その他の日付・期間等を表示するものとして一般に使用されている場合は、元号として認識されるにすぎません。”
・・・いわゆる「時期」的なものを示すに過ぎないケースを述べています。
「令和」は元号ですから、時期を示すものと考えられます。だから時期を示すような態様で商品等につき商標登録しようとするケースでは、その商品等には「識別力」がないよ!ということを述べています。
3.“また、上記のとおり、元号は識別力がないと判断されますので、他の識別力のない文字等(例:商品又は役務の普通名称)を組み合わせた商標(例:平成まんじゅう(指定商品:饅頭))も、識別力はなく、商標登録を受けることはできません。”
・・・ここでは、「令和」と「普通名称」の「組み合わせ」の可能性について言及しています。
例えば、「令和ベーカリー」だと「ベーカリー」に識別力がないので登録は難しいでしょう。同様にして「令和+識別力のない名称」は難しいと判断されます。
4.“なお、元号と認識されたとしても、例えばある特定の商品又は役務において使用された結果、需要者が特定の者の業務に係る商品又は役務であると認識できるに至っている場合には、識別力があるものとなりますので、商標登録を受けることが可能です(他の拒絶理由に該当しない場合に限る。)。”
・・・ここでは、いわゆる「特別顕著性」のケースを述べています。(商3条2項)
例えば、「令和ベーカリー」だと先述の理由で、原則として、登録は難しいです。しかし、もし「令和ベーカリー」が特定の出所を示すものとして、一定の著名性を有している場合には、例外的に登録が認められることになります。
他の「令和+識別力のない名称」でも同様の適用があります。
5.“現在の商標審査基準には「現元号を表示する商標」について商標法第3条第1項第6号に該当する旨明記されていますが、現元号以外の元号についても明確化を図るため、今後上記取扱いに準じた基準の改訂の検討をいたします。しかし、「図形」あるいは「図形と文字等の結合」によって登録された商標も数多く存在します。(商2条1項)”
・・・ここでは、後半の一文に注目しましょう。
つまり、例えば、「令和クリニック」が「文字だけ」だと識別力がないので登録は難しいと仮定しましょう。このケースでもし、「図形」を取り入れることによって識別力が生じるときには、登録が認められるということを述べています。
他の「図形と文字の結合」でも同様の適用があります。
以上です。
まとめると、
①「令和」だけ⇒原則不可能
①「令和〇〇」に特別顕著性がある⇒登録可能性あり
②「令和〇〇」が図形と組み合わせになっている⇒登録可能性あり
となります。
簡単にご説明しましたが、このあたりの判断は難しいため、「令和」を取り入れた商標で登録をご検討の方はぜひ一度、弊所にご相談ください。