商標登録は、ブランド保護、取引先からの信用度の向上など、ビジネスに大きなメリットをもたらすものですが、
一方で、もし登録しなかった場合のデメリットもあります。
商標登録をするとなれば登録に際して手数料が発生してしまったり、登録が無事に完了した後でも管理と運用のために手間が生じてしまうものの、これかを考慮しても商標登録しない事によるデメリットの方が大きくなるケースもあります。
商標登録しないリスク
自分がその商標を使えなくなる
他人に商標権を取られてしまうと、その商標を使用できなくなるリスクがあります。
仮に、商品名やサービス名について先に商標を使っていても、後発の他人に商標を取られてしまうということもあります。
その場合、商標権者から、製品の廃棄や、損害賠償請求をされてしまうことも少なくありません。
また、せっかく市場で認知を得た名称を使えなくなってしまうというリスクがあります。
その場合、ブランディングを一からやり直しという事態になりかねません。
例えば、事業を始めてしばらくたったある日、A様に1通の郵便が届きました。
ハンコを押して受け取ったその手紙を開けてみると、表題には「警告状」と書いてありました。因みに、表題には「警告状」ではなく「通知書」と記載されていることもあります。
弊所も、「商標を侵害しているという書面が届いたけれど、どうしたらいいのか」というご相談を年に数回いただきます。
上記のケースでは、A様はとても困惑されている様子でした。いきなりそんな書面が来たら驚かれるのも当然かと思います。
警告状の内容としては、商品の廃棄とともに、今後の商標の使用の停止を要求するものでした。また、これまでに生じた損害の賠償を請求するというものでした。
そもそもこのような警告状は、どんな時に届くのでしょうか。
警告状の差出人は、商標権者か、その代理人(弁理士または弁護士)であることがほとんどです。
商標権者は、自分が登録した商標と同じ、または似ている名称(ロゴ)を他人が同じサービスや商品に使用していることを知って、「使用を止めさせたい」と思った時に警告状を作成し、送付します。
使用を止めさせたいと思う、ということは、
例えば、あなたがその商標を使用している事実が、業界内でメジャーになってきた場合に、警告状が来ることがあります。
こちらは、たとえば、雑誌などの媒体に取り上げられた・人のブログ内でよく紹介されているなどによって、あなたが商標を使用していることが、商標権者に知られた場合に、警告状が来ることがあります。
また、その商標でインターネット検索をすると、上位に表示される場合にも、警告状が来ることがあります。
いずれにしても、人の目に触れやすくなるのに比例して、警告状が来る可能性が高くなるということが言えます。
つまり、事業が軌道に乗ってきたタイミングで、警告状を受け取ってしまう可能性が高いのです。
別の理由として多いのが、あなたが提供している商品・サービスが、商標権者の商品・サービスと間違えられた場合に警告状が来るこということです。
以前、「白い恋人」の商標権を保有する石屋製菓が、「面白い恋人」を使用する吉本興業を訴えたという事件が話題になりました。一部の方の中には、「たかがパロディ商品で、笑いを取るためのものだから目くじらを立てることはない」と感じられる方もいらっしゃると思います。
しかし、最終的に訴訟にまでなったのは、「面白い恋人」を「白い恋人」と間違えて購入したという苦情が、商標権者である石屋製菓に寄せられたことが発端となっています。
このような苦情が寄せられると、商標権者側としては、自らが長年培ってきた、ブランドイメージが損なわれるのではないかという点を不安に感じます。そして、ブランドイメージを守るためにも警告状を出すという決断をするようになります。
警告状は普通、簡易書留や内容証明郵便といった直接受け取る形で届くことがほとんどです(最近は、電子内容証明を使う方もいます。)。
本文には、「あなたの使用している商標は、私の登録商標と同一だから使用を止めるように」といった内容と、侵害している登録商標と登録番号が記載されています。
このように、使用停止の要求だけが示されている警告状もありますが、以下の内容も求められることもあります。
・警告状に対する誠意のある回答(回答期限あり)
・商標がついた商品の全部廃棄、過去の写真等の全部削除(期限あり)
・廃棄や削除を行った証明書類の提出
・和解金の支払い
状況によっては、回答や削除期限が短く設定されてしまいます。
また、和解金が高額というケースもあります。
一般名称化するリスク
その中でも自分が考案したオリジナリティが高い文言やフレーズなどが、一般的な名称に成り下がってしまうというリスクがあります。
過去にあった有名な事例では、胃腸薬で有名な大幸製薬の「正露丸」が一般名称化したということがありました。
これによって、「正露丸」の商標登録は、取り消されてしましました。
現在では、複数の会社からも「正露丸」という名前が使われる状況になっています。
正式に商標登録をしないという事は、せっかく築き上げたブランドが、まるでフリー素材のような様子になっていると言っても過言ではない状況といえます。
大幸製薬の「正露丸」については、その後、ラッパのマークと組み合わせた広報活動によって、現在のような形になっています。
一旦、一般名称化すると、このように他の内容(ラッパのマークなど)と組み合わせたブランディングを再度やりなおさなければならない事態にもなりかねないと言えます。
また、名称やパッケージが変われば中身が同じものでも、最初は手に取って頂けなくなってしまう可能性もあります。
こうした事例は決して珍しい事ではなく、既に世の中に存在していて人々が一般的に使用しているあらゆる物にも当てはめて考える事ができ、書類を纏める際など文具の中でも比較的使用頻度が高いホッチキスも例外ではありません。
なお、過去に一般名称化した商標としては、以下のようなものが挙げられます。
・うどんすき
・巨砲
・ホームシアター
商標権を取得することで、他人が商標を無断に使用することを中止させることができるようになります。
他人が商標を使用することを、中止させることで、上述したように一般名称化することを抑制できるようになります。
損害賠償や使用料を請求される
既に高い認知度があっても先に登録されてしまうと、仮に老舗であっても、損害賠償請求がされるリスクがあります。
このような事態になってしまうと、先に使っていた側としては、不満を持たれたり、理不尽に感じられるかもしれません。
もしも、馴染みのある名称を継続して使い続けたいと考えている場合、相手に対し使用料を支払って使い続けさせてもらうということは可能です。
使用料については、相場としてはおおむね、売上の1.5%~3.5%ほどと言われています。
他人に自分の商標を真似されることによるリスク
ある起業家の方ですが、事業を始め、内容が具体的になり、少しずつであるけれども仕事が進むようになってきました。
SNSなどを通じての認知度も高っていき、これで少しは落ち着くかなと肩の力を抜いたある日のことです。何となくインターネットでいつも通りに記事を検索していたら、ある業者のウェブページを発見します。そこには、自分が提供しているサービス名と全く同じ名称が使用されていました。
しかも、事業のコンセプトもそっくりです。
「ウチのサービス名が真似されている!」とその方は大変驚いたということがありました。
明らかに知名度が上がっていつつあるサービス名をそのまま横取りされていると思ったとき。
ほとんどの方は、
・許せない、少しでも早くサービス名の使用をやめて欲しい
・相手に先に商標申請されたらどうしよう・・
・もし相手に商標権を取られたら、せっかく知名度が上がってきたのに、事業自体を撤退せざるを得ないのか
・訴えられたらどうしよう・・
と考えます。
特に、他人に先に商標申請をされ、その後、商標登録されてしまうと大変です。例え、先に商標を使用していても、逆に訴えられてしまうリスクがあるからです。
実際に、先に使っていたサービス名を他人に取られ、その後、警告状が送られてきたという事例があります。この件では、結果として長年使っていたサービス名を変更せざるを得なくなってしまいました。
上記以外にも、見込み客の方が、自分と間違えて他人のサービスを購入してしまった、
さらに、そのサービスの品質が悪く、自分の会社に苦情が来た
などの実例があります。
他人に商標を真似されている場合、まず始めやるべきことは、この商標が自分以外から申請されていないことを調査することです。
仮に、誰も自分の商標を申請していない場合は、速やかに商標申請を行うことがとても重要です。
商標申請を行い、サービス名・商品名について商標登録を受けることで、以下のことが可能になります。
・サービス名・商品名の使用の中止:例えば、Webページからサービス名の削除を要求できます。
・損害賠償請求:真似されるおとによって被った損害賠償を請求できます。
・信用回復の措置:新聞などのメディアへの謝罪を要求できます。
急いで商標を登録したい。権利化させたい。そんなときに「早期審査」という制度があります。通常の審査結果が商標申請から、9ヵ月ほどの時間がかかるのに対し、早期審査請求をすることで、審査機関を約3~4ヵ月に短縮できます。