特許申請ノウハウ

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勝訴したマネーフォワードは、なぜFreeeを訴えなかったのか

先日、Freeeとマネーフォワード間の特許訴訟の判決が出たことが話題を呼びました。
両社は、クラウド会計ソフトサービスを提供するベンチャー企業です。
この訴訟は、昨年10月にFreeeが、同社の自動仕分システムの特許を侵害しているとして、「MFクラウド会計」を提供しているマネーフォワードに対し、当該サービスの差止を請求したもので、結果として、7月27日判決により、Freeeの請求が棄却され、マネーフォワードが勝訴しました。

 

どんな事件

争点は、会計システムに取引を入力した際に用いられる「自動仕分」の方法に関してです。
自動仕分とは、銀行、クレジットカード会社等が提供するウェブ明細に記載された取引内容のキーワードから、自動的に勘定科目を表示させるものです。具体的には、明細にANAと記載されていれば、旅費交通費の項目などが表示されます。
 

~Freeeの主張~

Freeeの主張は、「マネーフォワードの方法は、「タクシー」と記載された取引に「旅費交通費」の勘定科目を付与し、「五反田」と記載された取引に「会議費」の勘定科目を付与し、「書店」と記載された取引に「新聞図書費」の勘定科目を付与し、「ドコモ」と記載された取引に「通信費」の勘定科目を付与しているから特許権の侵害」だというものです。
また、同社が特許取得している方法では、複数のキーワードが入力された場合に、優先順位の最も高いキーワードを選択し、対応する勘定科目を表示させます。例えば、「モロゾフ」「JR」「三越伊勢丹」と3つの記載が1つの明細にあった場合、最も説明力が高いと考えられる「モロゾフ」を選択し、「接待費」が表示されます。
 

~マネーフォワードの主張~

一方、マネーフォワードは、Freeeのように、キーワードに対応する勘定科目を規定した一覧表を参照するのではなく、機械学習(※)を利用して、複数のキーワードなどから、勘定科目を推測する方法を採用していると主張しています。つまり、マネーフォワードの製品は、推測することによって、新たな取引についてもより高い確率で適切な勘定科目に自動仕分けできるといいます。
例えば、マネーフォワードの製品で、「店舗チケット」と入力したとします。すると、「店舗チケット」に含まれるキーワードのうち、「店舗」と対応する「福利厚生費」や、「チケット」と対応する「短期借入金」が表示されるのではなく、2つのキーワードから「旅行交通費」という結果が出力されます。
さらに、マネーフォワードの製品は、同じ言葉を含む取引内容であっても、取引金額やサービスカテゴリーに応じて異なる勘定科目を出力していることから、画一的に、単にキーワードだけで勘定科目を選択・表示していないといえます。
そのため、最終的に裁判所は、マネーフォワードの製品は、単にキーワードと勘定科目を規定した対応表を参照するFreeeの特許の範囲外であるという認定をおこない、Freeeの訴えを退けました。

 

なぜマネーフォワードは、Freeeを訴えなかったのか

今回、もしマネーフォワードが負けてしまっていたら、自動仕分機能が使えなくなることによるサービスの質の低下が免れないため、同社の事業に与えるダメージは相当に大きかったといえるでしょう。
このような特許権侵害訴訟では、訴えられた側から、訴えた側に訴訟を起こす(反訴する)ことが多くみられます。しかし、マネーフォワードが反訴しなかったのはなぜでしょうか。
その理由は、特許登録・出願数から推察できると考えています。
公開されている特許を見てみますと、Freeeの取得数は、7件にのぼります。対して、マネーフォワードの取得数は、2件です。
つまり、マネーフォワードは、例え反訴を企図したとしても、根拠材料となる特許の保有数が圧倒的に少ないのです。逆にFreeeは、主張の根拠となる材料が多く、マネーフォワードの反論に対して、さまざまな理論武装ができるといえ、このことが、マネーフォワードが反訴しなかった大きな要因となったのではないかと考えられます。

さいごに

Freeeの特許は、非常に広い範囲で権利化されており、これからも独占的に実施できることから、同社の市場優位性が失われることはなく、今後も競合する会社にとっては、脅威となる可能性があります。
一方で、今回のマネーフォワードの技術のようにAI化が進んでいる昨今、この傾向は会計にとどまらず、様々な分野・業種により波及していくでしょう。
特許を取得することは、自社の技術やサービスを守ることに大きな役割を果たします。
万が一法廷での争いとなった場合には、訴える側であっても、訴えられる側であっても、その存在は非常に重要なものとなります。

 

※機械学習:コンピューターが、入力された過去のデータから、判断に必要なアルゴリズムを自動生成し、新たなデータについてこれを適用して予測すること